失語症

失語症患者のリハビリ

文字そば

 考えてみると、英語で「イケメン」に当たる言葉ってない気がする。

 いや、もちろん「顔の造形がいい男」を表せる言葉は英語にも山程存在しますよ? ただ、それは日本語における「イケメン」という言葉の使用頻度とはどれも比べ物にならない低いって話。言葉としてのランクが低い。この感覚分かりますか?たとえば日本語には「醜女(しこめ)」という、容姿の醜い女を指す言葉があるけど、こんなもん誰も日常会話で使わないでしょ。代わりに「ブス」とか言うはず。この場合、「醜女」は「ブス」と比べて言葉としてのランクがずっと低いと言えるんです。オーバーに言えば、「醜女」という言葉は日本語に「存在していない」と言ってしまってもいい。その理論でいくと、英語には「イケメン」にあたる言葉はないね~って話です。

 じゃあ代わりに彼らは「イケメン」を見たときに何て言うのかといえば、まぁ十中八九「hot」と言うと思います。これは男女どっちにも使える言葉だから便利よね。あるいはstudかな。これは名詞だし、日本語で言う所のイケメンに最も近い言葉だと思いますけど、それでも使用頻度は「イケメン」のそれより何倍も低い。good-lookingとかはほぼ誰も使ってない。少なくとも「顔がいい人間」を表す言葉としては。

 hot主流デッキの何が偉いって、「イケメン」が完全に顔の造形の美しさのみを基準にした無慈悲な言葉であるのに対し、「hot」は言葉の印象通り、見た目だけじゃなく内面的な魅力のことも秘めてるんですよね。だからhotという言葉だけじゃただ顔だけを褒めているのか、あるいは肉体の美しさや性的魅力を言っているのか、はたまた内面なのかみたいなのが特定できないんです。でも彼らは寧ろ「特定する必要はない」と考えているわけ。褒められてんのには変わりないからね。「イケメン」なんて血も涙もないワードナイフより、文字通り、”あったけぇ”言葉なんだなぁ。

 まぁ、「性格イケメン」とかも言わないことはないけどね。かっこいい行いに対して「イケメン!」って言ったりもするけど、それは若干インターネット寄りの用法だし、そこまでメジャーではない。よしんばメジャーだとしても、それはsewerが「下水道」と「裁縫師」の二つの意味を持っているみたいな、一単語に二つの別の概念が詰め込まれているに過ぎない気がする。そもそもの語源は「イケてるメンズ」だし、本来は内面的な意味の方が強かったのかもしれないけど、まぁ言語は生き物だから……

 

 「ブサイク」にあたるのは全然あるんですけどね(ugly)。人間に対してはむしろ醜さを表す形容詞のほうが豊富かもしれん。モノや概念に対してならexquisiteとか色々あるんだけど。